■事業評価、企業評価が困難 買収に当っては、買収対象会社をいくらで買取るかという問題が生じます。日本国内でのM&Aにおける企業評価の測定方法は、①純資産法、②マルチプル法、③DCF法の3つに分けられます。その中でも②マルチプル法と③DCF法が一般的な測定方法といえます。
しかし、新興国では正確な財務データの入手がそもそも難しいことや、DCF法における将来のキャッシュ・フローや割引率の算定に当って、日本国内とは異なる事情を考慮しなければいけません。
[純資産法]…① 純資産法とは、時価純資産法を指しますが、客観性が高く当事者にわかりやすいことからも簡素化を図りたい企業や中小企業にポピュラーな手法です。理論的には単純であり、BSの資産科目を時価で評価し、そこから負債を差引きます。
[マルチプル法]…② マルチプル法とは、一般的にベンチマークとして類似企業を選定し、その企業の損益の前期実績・当期見通し・来期予想などから比準倍率を求め、対象会社の財務データに当該比準倍率を乗じることで企業価値を算定する方法です。しかし、新興国ではそのようなデータの信憑性に不明確な点が多いため、企業評価の適正性が問題となります。 そのような場合には、たとえば、製造業ならば生産量、コンビニ業ならば店舗数など、業界特有のドライバーを利用する方法や、利益率などの比準倍率を算定するに当って先進国と新興国の差を保守的に見積り、倍率を修正する方法も検討する必要があります。 マルチプル法はDCF法に比べて簡易であり、算出した企業価値が業界の相場と連動しているかが分かるというメリットがあります。しかし、企業価値算定の基礎となる倍率の設定について為替㆑ートや資本コストといった点を反映できないという問題点があります。
[DCF法]…③ DCF法とは、将来のキャッシュ・フローを一定の割引率で割引いた割引現在価値をもって企業価値を算定する方法です。将来のキャッシュ・フローとは、費用や税金を支払い、事業を継続していくために必要な投資をした後に残ったお金のことです。また、割引率は株主資本コストと負債資本コストを加重平均して求める企業もあれば、事業ごとに内部利益率を設け、合算して算出している企業もあります。 将来のキャッシュ・フローの算定に当っては、通常現地通貨ではなく、直物㆑ートで換算した円やドルなどの国際通貨による方法が一般的です。ただし、この場合には、将来の為替変動のリスクがキャッシュ・フローに反映されないという問題点があります。 割引率については、自国で設定した割引率を使用する方法、もしくは自国の割引率に一定のリスクを上乗せした割引率を利用する方法が考えられます。前者はカントリーリスクやビジネスリスクが反映されないという問題が生じますし、後者はどれだけのリスクがあるかという判断の適正性についての検討が必要となります。簡便性を重視する企業では前者が一般的に利用されますが、後者を利用する企業もあります。